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      「加藤特許事務所 ~知財 とびうめ便り~」 Vol.03
                        発信日:2008年11月4日
                        発信者:加藤特許事務所
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★ 目 次 ★
  1.所長コラム
   ●お客様の役に立つことについて
  2.知財ニュース
   ●特許庁、「スーパー早期審査制度」設立に向け、試行開始
   ●特許庁、商標制度紹介ビデオのインターネット配信を開始
  3.連載 知財講座
   ●第3回:先願主義について
  4.イベント案内
   ●平成20年度知的財産権制度説明会(実務者向け)開催中
  5.事務所からのお知らせ
   ●奈良先端科学技術大学院教授 久保 浩三 氏が客員弁理士に就任

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1.所長コラム
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●お客様の役に立つことについて
  このメルマガの創刊号で所長の加藤も言っていましたが、特許事務所の使命はお
客様の役に立つこと、これに尽きます。かなり前の話ですが、お客様の役に立てた、
と思えることがありました。

 ある地方の機械製造会社の社長さんが画期的な選別器を開発しました。さっそく、
地元の特許事務所に依頼して特許出願を行ったのですが、あえなく拒絶査定。理由
は進歩性ナシでした。

 この社長さんはそれでも諦めきれずに、同じ特許事務所に依頼して今度は実用新
案で出願しました(当時はまだ実用新案も審査を行っていた時代でした)。特許で
進歩性がないのであれば、実用新案ならば大丈夫だろう、というのは当時の一般的
な戦略でした。ただし、一度出願して特許にならなかったものが、実用新案で再出
願しても登録にはならない・・というのはこの業界の常識です(常識と言うよりは、
法律がそうなってますから)。案の定、二回目の出願もダメ。理由は、前回と同じ
く、進歩性ナシ。

 これでもその社長さんは諦められませんでした。これが三度目の正直、最後の出
願という段階になって、巡り巡って、私に依頼がやってきました。話を聞いてみる
と、まさしく画期的な発明でした。特許にならなかったのが不思議なくらいでした
し、この社長さんが諦めきれなかったこともよくわかりました。

 ただ、さすがに躊躇しました。これまでに2回も出願して特許(実用新案登録)
にならなかったものを再度(3回目)出願したところで特許になる訳がありません。
それでも、ダメ元でいいから、ということでしたので、依頼をお引き受けしました
(渋々でしたが)。

 前2回の明細書を読んでみると、肝心の発明の内容(構造)が書かれていません。
発明の効果しか書かれていませんでした。無理もないことで、この発明の効果は一
目でわかるのですが、この発明の原理を文字で説明するとなると、ちょっと見当が
つかないものでした(ちなみに、発明者である社長ですら、わかっていませんでし
たから)。

 それでも、ずいぶん時間はかかりましたが、発明の原理らしきものを記述して、
なんとか出願を済ませました。このときばかりは審査結果を見るのが恐怖でした。
ところが、意外にも、一発で特許査定。これには自分でも驚きましたが、社長さん
にはずいぶんと喜んでいただきました。

 お客様の役に立てた、と心底から思えた瞬間でした。

 副所長 弁理士 天野 広

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2.知財ニュース
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●特許庁、「スーパー早期審査制度」設立に向け、試行開始
  特許庁は、10月1日から、特許審査期間のさらなる短縮を図るため、早期審査
制度よりも早く審査を終える「スーパー早期審査」の試行を始めた。審査期間は、
最終の審査処分が出るまで4ヶ月以内を目指しており、現行の早期審査(平均5.
9ヶ月)より大幅に短縮される模様です。この審査の対象となる出願は、発明を実
施中・実施予定で、かつ外国に出願していることとなっています。

詳細は、特許庁のWEBサイトをご覧ください。
URL: http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/souki/supersoukisinsa.htm

●特許庁、商標制度紹介ビデオのインターネット配信を開始
  特許庁は、10月1日から、商標制度及び地域団体商標制度を紹介したビデオの
インターネット配信を開始した。商標制度をこれから学びたい、興味がある方、又
は商標出願をしたい方などを対象にしたビデオである。このビデオ配信は、次の2
つの項目から構成されています。

・知っておこう商標のキホン ~商標制度の概要~(約20分)
・サポートします!地域ブランド ~地域団体商標を登録するためには~(約20分)

詳細は、特許庁のWEBサイトをご覧ください。
URL: http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/seido/s_shouhyou/syoukai_video.htm

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3.連載 知財講座
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第3回:先願主義について

 「先願主義」とは、同じ発明について、2以上の出願があった場合、先に出願し
た者に権利を付与する制度のことです。この制度の下では、同じ発明をした者が二
人いた場合、どちらが先に発明をしたかにかかわらず、先に特許庁に出願した者(
出願日が早い方)が特許を受ける権利を有することとなります。先願主義において
は、先に出願をした方を先願、後に出願した方を後願といいます。

 一方、最初に発明をした発明者に権利を与える「先発明主義」という制度があり
ます。この制度の下では、同じ発明をした者が二人いた場合、出願日にかかわらず、
先に発明した者が特許を受ける権利を有することとなります。

 最初に発明した者に権利を付与する「先発明主義」は、一見して、特許制度の趣
旨に適うように思われますが、発明日の立証が困難であること、権利成立後に新た
な発明者が現れ事後的に権利が不安定になる場合があること、先に発明した者を特
定する手続が煩雑であること等の欠点があります。
  これに対し、「先願主義」は、出願日の先後が明確であり、権利の安定性に優れ
ているため、現在では、最初に特許出願を行った者に特許権を与える「先願主義」
を採用する国が大多数であり、「先発明主義」は米国が採用するのみとなっていま
す。

 先願主義では、自分が最初に発明しても、他人が先に出願してしまうと特許を受
けることができなくなりますから、発明が完成したら、出願手続きに時間をかけず、
できるだけ早く出願することを心がける事が大切です。
  この僅かの時間あるいは1日の差が、その後の企業の発展の分かれ目になった例
は多くあります。ここでは、有名な話を2つ程紹介します。

 天然染料として有名な茜の主成分であるアリザニンの製法は、一日の差で英国の
化学者パーキンではなく、当時農業国であった独国のグレべに与えられた。独国の
染料工業の興隆はこの特許権取得が大きく寄与したといわれています。また、発明
家ベルが米国特許局に電話の出願をしたのに、僅か数時間遅れて発明家グレーが同
じく電話の発明を出願しました。このわずかな時間の差で、今日、電話の発明家と
いえば、多くの人はベルの名前を思い浮かべることとなったといわれています。

 先願主義を採る我が国においては、如何に早く出願するかが企業の特許戦略の大
きなポイントといえます。

 さて、ここでクイズです。
  我が国において、同日に出願があった場合はどのように取り扱われるのでしょう
か?(答えは巻末※※)

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4.イベント案内
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●平成20年度知的財産権制度説明会(実務者向け)開催中
  特許庁は、10月~12月にかけて全国16都市で、実務者向けの知的財産権制
度説明会を開催中。
  日頃から知的財産業務に携わっている方、知財を経営に活かしたいと思っている
方、知的財産権制度を学んでいる方などを対象にした説明会である。特許・実用新
案・意匠・商標の審査基準、審判制度の運用・手続、PCT制度の概要・実務、先
使用権制度など、その他実務上必要な諸制度について、数日間かけて説明する。参
加の場合は、事前に申込みが必要です。申込み先・問合せ窓口は、各都道府県の発
明協会となっています。参加費は無料。九州での開催都市は福岡市と那覇市です。
○開催日 福岡市:11/11,25、12/2,11,16
      那覇市:11/17,27、12/4,11

詳細は、特許庁のWEBサイトをご覧ください。
URL: http://www.jiii.or.jp/H20_shibu_setsumeikai/H20_jitsumusyasetsumei/h20_chizai_jitsumu.html

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5.事務所からのお知らせ
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●奈良先端科学技術大学院教授 久保 浩三 氏が客員弁理士に就任
【経 歴】
  1987年弁理士試験合格。大阪府立産業技術総合研究所、大阪府研究開発型企業振
興財団、および大阪府立特許情報センターを経て、2003年より、奈良先端科学技術
大学院大学において、知的財産に関する研究、教育、技術移転に従事。長年、一貫
して、地域の中小・ベンチャー企業、起業家、研究者の知的財産活用の実務を行っ
てこられ、現在、日本中が注目している「知的財産活用による地域振興」の草分け
的存在である。

 久保氏の入所により、産学連携に関するより高度適切なアドバイスを皆様に提供
できるようになりました。

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 編集・発行: 加藤特許事務所 -メルマガ事務局-
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  TEL:092-413-5378 E-mail:mail@kato-pat.jp
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※※クイズの答え
  我が国において「同日出願」の場合、両方の出願人の「協議」によります。もし
協議が成立しない場合はどちらの出願も特許を受けることができないことになりま
す。ところで、商標登録出願の場合、協議不成立のときは特許庁長官の行う「くじ」
によって決められます。なぜ特許出願の場合と異なるのか、考えてみてください。