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      「加藤特許事務所 ~知財 とびうめ便り~」 Vol.21
                        発信日:2011年11月1日
                        発信者:加藤特許事務所
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★ 目 次 ★
  1.所長コラム
   ●拒絶理由と特許請求の範囲と明細書の話

 2.知財ニュース
   ●知財高裁、「サトウの切り餅」は越後製菓特許を侵害 東京地裁判決覆す

 3.連載 知財講座
   ●第21回:特許図面

 4.イベント案内
   ●外国財産権制度セミナー 訴訟に強い米国特許のとり方のノウハウ

 5.事務所からのお知らせ
   ●米国が先願主義へ移行

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1.所長コラム
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●拒絶理由と特許請求の範囲と明細書の話

 別に三題噺を始めようというわけではありません。

 特許出願の審査において、大半に発せられるとはいえ、「拒絶理由通知」という
タイトルはあまり気持ちのいいものではありません。「拒絶」という言葉の冷たい
響きに、なんとなくイヤなものを感じてしまいます。

 しかも、進歩性を否定する根拠となる引用文献に、一件関係なさそうな公開公報
が含まれていたりすると、この審査官は発明の内容がわかっているのかと、恨みご
との一つも言いたくなることがあります。本願発明の特徴および効果はちゃんと明
細書に記載したのに…。

 ごく希に審査官が技術内容を誤解することはありますが、基本的に新規性や進歩
性の判断は、明細書にのみ記載の事項は参酌せずに、特許請求の範囲に記載された
発明のみを対象にして行われます。

 通常、広い範囲について権利化を図るために、特許請求の範囲の作成に当たって
は、必須の構成要素の絞り込みや上位概念化などの作業を行います。

 その結果、特許請求の範囲に記載された範囲内に、公知発明と同一の発明または
公知技術を元に想到容易な発明が含まれてしまうと、それを理由とする拒絶理由が
通知されます。

 やや極端な例ですが、音声解析技術などを駆使して、裏番組で放映中の野球の試
合に動きがあったことを検知した場合に、視聴中の番組を表示した画面の片隅に野
球中継の画面を小さく表示するテレビを発明したとします。

 権利範囲を広く確保しようと、「予め設定された所定の事象が派生した場合に、
当該事象に対応する所定の動作を行うことを特徴とするテレビジョン受像器」とい
う請求項を作成すると(具体的構成の記載されない単なる願望にすぎず、発明とし
て未完成という可能性もありますが、その点は考慮しないものとします。)、この
請求項に記載の発明は、設定時刻にスイッチをONにしたり、録画を開始したりす
る既存のテレビを含むことになり、新規性欠如を理由とする拒絶理由が通知される
ことになります。

 特許請求の範囲の記載はともすれば抽象的なものになりがちな上、発明者は具体
的なイメージを持った上で特許請求の範囲を読むため、なかなか気づきにくいこと
もあります(代理人も同様だったりします。もちろん、第三者の視線で記載内容を
客観視するための職業的訓練は積んでいるわけですが。)。

 一方で、明細書の記載との関係で通知される拒絶理由もあります。
  いわゆるサポート要件違反や実施可能要件違反と言われるもので、上記の例だと、
明細書の実施形態や実施例等の項目に、「裏番組で放映中の野球の試合に動きがあっ
たことを検知した場合に、視聴中の番組を表示した画面の片隅に野球中継の画面を
小さく表示するテレビ」のみが記載されているケースがこれに当たります。

 特許請求の範囲にはものすごく広い範囲の発明が記載されていますが、そのごく
一部のみが具体的に記載されているに過ぎず、残りのものについては、技術常識を
踏まえても、どのような機能を有するものなのか、どのようにして製造することが
出来るのかが判らないという判断がなされることになります。

 拒絶理由と特許請求の範囲と明細書の関係について、おおざっぱですが説明して
みました。多少なりともご参考になれば幸いです。
  余談ですが、特許査定の「この出願については、拒絶の理由を発見しないから、
特許査定する」という文面は、もう少し愛想よくならないものでしょうか。

                           弁理士 中嶋 和昭

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2.知財ニュース
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●知財高裁、「サトウの切り餅」は越後製菓特許を侵害 東京地裁判決覆す

 食品メーカーの越後製菓は、側面に切り込みを入れた「切り餅」の特許権(第
4111382号)を侵害されたとして、「サトウの切り餅」で知られるサトウ食品工業
に対して、侵害製品の製造販売の差止めと損害賠償を求めていた訴訟の控訴審で、
知財高裁は、9月7日、一審の東京地裁の判決を覆し、サトウ食品の特許侵害を認
める中間判決を下しました。

 特許侵害を認めた主な判断として、知財高裁の飯村敏明裁判長は、特許請求の範
囲における「載置底面又は平坦上面ではなく」の記載は、「側周表面」を明確にす
るための記載で、載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けることを「除外」する
ための記載でないとして、上面底面と側面の両方に切り込みを設けた「サトウの切
り餅」は、特許を侵害していると判断しました。

 本判決に興味のある方は、下記のURLより判決文をお読み下さい。
URL: http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110908113622.pdf

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3.連載 知財講座
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第20回:特許図面

 特許出願では、願書、明細書、要約書に加えて、図面を提出します。先の3つの
書類のみでも出願は可能ですが、審査において、発明の内容をより明瞭にするため、
特に構造物の発明においては、図面は必須の書類といえます。

 また、出願した特許が、先行発明に基づいて容易に発明できたものであるとして、
拒絶理由が通知された場合、図面の記載を基にクレームを補正して先行発明との差
異を主張することができます。そのため、正確かつ明瞭な図面の作図が必要となり
ます。

 なお、特許図面の図面サイズ、フォントサイズ、線幅、線種などは、特許庁で規
格が定められており、これに沿った作図が必要です。

(例) ・図面サイズ:横170mm、縦255mm 以内
    ・符号サイズ:約5mm
    ・線幅   :実線 約0.4mm
           細い実線(引出線、破線 等)約0.2mm 等

 この他、規格の詳細は特許庁HP『特許出願の「図面」の作成要領は?』に記載
されておりますので、興味のある方は下記のURLよりご覧ください。
  URL: http://www.jpo.go.jp/toiawase/faq/yokuar10.htm

 加藤特許事務所においては、図面の専任スタッフを要しており、緊急の出願にお
いても、綺麗で正確な図面を提供できるように心がけております。特許図面に関す
るご相談・ご質問等がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

※弊所では、2次元CAD(DXF)と3次元CAD(IGES)のデータの読み込みと編集
が可能なソフトを導入しており、これらのCADデータを頂ければ、より正確な特
許図面の作成が可能です(CADの種類・バージョンによって、読み込み不可能な
データもございます。)。もちろん、ラフ図や写真から図面を起こすことも可能で
す。

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4.イベント案内
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●外国財産権制度セミナー 訴訟に強い米国特許のとり方のノウハウ

 発明協会は、中小・ベンチャーをはじめとする企業の経営者、技術者、特許管理
者等に携わる多くの方々を対象に、米国で訴訟に強い特許を取得するための、実務
上必要な知識習得を目的としたセミナーを3都市(名古屋市、大阪市、福岡市)で
開催します。

 参加の場合は、事前申込みが必要です。参加費は無料で、福岡市での開催日は12
月12日です。申込先等の詳細は、下記のURLよりご覧下さい。
  URL: https://www.jiii.or.jp/apic-seminar/leaflet/Fukuoka3.pdf

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5.事務所からのお知らせ
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●米国が先願主義へ移行

 世界の特許制度の調和を推進する大きな障害となっていました米国の先発明主義
が、ついに先願主義に移行することになりました。

 オバマ米大統領が、9月16日、米特許法改革法案(America Invents Act)に署名
し、約半世紀ぶりに米国特許制度が大幅に刷新されることになりました。法案は、
先願主義の導入以外に、付与後異議申立制度や情報提供制度の採用等多岐に亘って
います。

 適用は2013年春になる見込みです。詳細については、漸次ご紹介して行く予定で
す。

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